旅も仕事もあきらめない

2007-12-14 21:15:27

私はネパールヒマラヤの名峰、アンナプルナのベースキャンプにいた。学生時代、いつもリュックを背負って貧乏旅行を続けていた私は、学生最後の旅先にネパールを選んだのだ。空港でつかまった少年ガイドに連れられて、私はここで朝陽に燃える真っ赤なアンナプルナの雄姿を見た。見てしまった。これが始まりだ。この瞬間、私はサラリーマンをやっていけない体になってしまった。こんな絶景を見ることができた自分は確かに幸運だが、自分はまだアマゾンの密林もサハラの砂も、ニューヨークの摩天楼もオーロラもライオンも、そしてエベレストも見ていない。60歳までなんてとても待てない。それに気づいてしまったのだ。

それでも何とかなるかもしれないという淡い期待を胸に、私はすでに内定していた生命保険会社に入社した。しかし当然に期待は期待にしかすぎず、3年間で香港にしか旅することができなかった私は、旅の予定どころか生活の予定すらたたないままに退社した。
仕事と旅の両立を可能にすべく、私は会計専門家を目指すことにした。試験後の40日間の中米旅行というニンジンをぶら下げて試験勉強を乗り切った。参考書を見る時間とガイドブックを見る時間が同じ位だった私の場合、当然実力は足りなかったのだろうが、旅先でお祈りした世界各地の神様のご加護でなんとか合格できた。

そして私は会計事務所を営んでいる。小さいながらもそれなりに忙しく働いている。
そして私はサハラの砂に眠った。手の届きそうなエベレストも見た。摩天楼とオーロラとライオンはまだだが、憧れのアマゾンに抱かれて眠った。

私はどうしても旅と仕事を両立させたかった。旅はしたい。長い旅をたくさんしたい。でもそれと同時に、日本での確固とした自分の役割も欲しかった。日常としての仕事があるから旅が生きると考えている。旅が日常になったら虚しいはずだ。仕事だけの人生はつまらない。でも旅だけの人生もつまらないだろう。
仕事に疲れた夜、ふと浮かんでくる旅の風景にどれだけ救われたことか。遠く地球の反対側で眠る夜、日本で待っている仕事があるという事実にどれだけ安心したことか。

旅も仕事もあきらめなくてよかったと、心から思っている。